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「僕······何か至らないところがありますか」 呟くように言う"あいが"が不安げな顔をする。 "あいが"の立場を考えれば、仕事を全うしてないと思ってしまうのだろう。 その気持ちを汲み取って、一回は身体の関係も作った方がいいのか。 否、その考えは打ち消した。 「お前の身体が魅力的ではない、ということではない。これは俺の勝手な行動のせいだ。友人やましてや身内にでさえ晒け出せないことを、何故かお前の前だけでは晒け出すことが出来る。だから、これからも俺のワガママを聞いてくれないか? お前の要望を聞いてないクセにこう言っておいてなんだが······」 本当だ。口に出すと自分の言っていることがあまりにも滑稽で、笑ってしまいそうになる。 これは一方的で図々しい。相手の弱い立場を利用した悪質だと言える。 そもそも、こちらの利益のために目の前のオメガを利用しているから、それ以前の話なのだが。 「そうですか。それを聞けて安心しました」 そう言って、"あいが"は遠慮がちに笑った。 その素直な表情とも思える困り笑いが、やはり、俊我に対する印象が悪くなったのかと思っていたが、封筒を胸に抱いた手が震えていなかったことで、安堵の息を吐いた。 「······今まで物を頂いたことがありましたが、結果的にはお客様が満足していたので、僕としてもらったのは初めてとも言えます」 「そうなのか?」 「はい。······あ、なんだか悪口のように言ってしまいましたね。今のは独り言として聞き流してください」 「あ、ああ······」 真意かどうかは分からないが、自分本意にしか考えられないことに対して、つい俊我のような者に吐露してしまうほど嫌気を差している。 だが、ここは己の欲と淫靡が渦巻く乱れきった世界なのだ。 "あいが"のような立場は、個を主張することはままならく、欲をぶつけられる都合のいい人形なのだ。 そう思われている、そう思うしかない。 その場限りの相手も自分も。

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