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「また会いに来て下さるのを楽しみにしています」と決まり文句を、しかし、微笑を添えた対象に背を向け、夜もすっかり更けた中、家路に着いた。 「ただいま」 「お帰りなさいませ、俊我様。今日は遅かったですね」 「ああ、友達と急に飯を食うことになってな。連絡しなかった上に遅くなってしまった」 「左様ですか。では、お風呂に入られますか」 「ああ、そうする」 「分かりました。準備してきますので、少々お待ちください」 こちらに一礼した使用人は、足早に風呂場へと向かった。 業績悪化に伴い、10人以上いた使用人の契約を打ち切った。 玄関で俊我の帰りを待っていた使用人も、今日が終われば打ち切るのだという。 当たり前にいた使用人の姿も消えていく。 その影響で今まで使用人にさせていた仕事である家事全般を、母が全て負うこととなった。 最後の一人である使用人が自分にやらせてくれと言ったことがあったが、これからのためにいつまでも頼るわけにはいかないと、教えてもらいつつもやろうとしていた。 ところが、家事を一切したことがなかった母にとってはやはり不得手で、日を増すごとに怪我が増えていった。 俊我も全くと言っていいぐらい家事はしたことがないが、母のあまりにも痛々しい姿に手伝ってやりたいところだが、それよりもしなければならないことがあるために、母にほぼ任せてしまっていた。 風呂待ちするため、リビングにいようと足を向けた時、反対側から父親の姿が見えた。 「親父──」 声を掛けるのを躊躇った。 眉間に皺を寄せ、自身を責めているような言葉、恨みつらみを聞こえるか聞こえない程度にぶつぶつに言いながら、俊我の姿が見えてないかのように、こちらに一切目もくれず、リビングの方へ向かった。 薄く扉を開け、左側にあるソファに座った父親の横顔を見た。 「······──」 頭を抱え、やはり聞こえない声量で何かを吐いていた。 会見以降、さらに悪評を呼んでしまったばかりに、どうやっても業績回復には至らず、追い詰められた父は精神を病んでしまったらしく、あのような姿になってしまった。

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