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張り詰めた細い糸が一本でつながれていて、それがいつ切れてもおかしくない状態。 そんなやつれた父と不慣れなことをして、傷を増やす母。 見ていられなかった。 発情期(ヒート)のせいで限られた仕事しか出来なく、それがより差別されているオメガもいるが、どんなに優れた頭脳を持つと崇められているアルファだとしても、このような状況に陥ってしまったら、宝の持ち腐れだ。 「俊我様」 父の方に集中していたからだろう。急な呼びかけに肩が上がった。 驚愕を滲ませた顔で振り向くと、使用人が一礼した。 「お風呂の用意が出来ました。お入りくださいませ」 「あ⋯⋯分かった」 風呂場へ向かう俊我と入れ違いに、その使用人が「失礼します」と言って、リビングの方へ入って行ったのを横目で見ていた。 「なんだお前は! また私を追い詰めるとでも言うのか!」 「あなた、落ち着いてください。──さんですよ。そのようなことをなさいません」 「嘘だ、そんなこと信じられん。誰がそんなこと⋯⋯」 いつもの光景。当たり前になってしまった会話。 部屋越しであるからこれ以上は聞こえないが、日常生活の一部となってしまったから、分かりきってしまった。 あのような父を今まで見たことがなかった。 しっかりと地を踏みしめ、小野河製薬会社代表取締役社長として、代々成し遂げてきた偉業を背負い、今とこれからの妨げる病を克服するための手助けをし、誰もが冒されることがなく、平等に暮らしていける形を作っていこうと、先陣を切って、やり遂げていく姿が眩しく、されど、その頼れる後ろ姿に当たり前について行こうとした。 そのような父であったから、あのような弱気になっていく姿を見たことがなかった。 もう、見ていたくないから。 「⋯⋯俺がなんとかしなければ」

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