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「あっ!お前逃げるのか──」 「それと」 立ち上がりながら、言葉を遮った。 「底辺の御曹司様が心酔している華園院様は、今でもうちと繋がりがある。この意味分かるか?」 「⋯⋯⋯」 「そもそもお前のような底辺がどんなにアプローチしても、トップ企業の御月堂の御曹司と婚約している。どちらにせよ、お前は見向きもされない」 「⋯⋯ッ」 嘲笑すると、その名も知らない御曹司もどきは、面食らった顔を見せた。 ようやく黙った。 「躾のなってない底辺御曹司《猛獣》だな」 去り際鼻で嗤うと、講義が始まるチャイムが鳴る中、俊我は出て行った。 あと何個か出なくてはならない講義があったが、気分を阻害されたため、いる気にもならなかった。 だが、どこかに行く予定もない。 あるとしたら。 「いつもよりは早いが、開いているのか?」 猥雑と喧騒が入り乱れる町を通り過ぎ、夕闇でも薄暗く、一歩足を踏み入れるのも躊躇う世界へと入り込んだ。 俊我の靴の音がやけに響く。 そうした中、主張するかのようにはっきりとした色合いの店が俊我のことを誘っていた。 その誘いに乗り、店内へと入って行った。 慣れた足取りで飾られた写真を見やる。 同じ位置で飾られている写真の真っ先に見る箇所に目を向けた。──が。 「発情期(ヒート)により、お休みさせていただきます⋯⋯」 目当ての相手の写真上にそのような旨が記載された紙が貼られていた。 ここの風俗に通い始めてから、一ヶ月経ったぐらいか。 そうか。それが来てしまったんだな。 授業で習った程度の知識しかないが、オメガには数ヶ月に一度、発情期(ヒート)というものが来る。 それは耐え難い性的衝動で、オメガから放たれるフェロモンで見境なく発情させてしまう。 そのせいで、差別され、限られた職にしか就けず、苦労が絶えないという。 だから、小野河製薬会社は副作用も少なく、効き目がある抑制剤の開発に乗り出していた。そのはずなのに。

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