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実際にもあの時、はるかのフェロモンと射精 された濃厚な白液に耐えきれず、一夜限りの関係を持とうとした。
が、間一髪でほんの僅かな理性があったおかげで難を逃れた。
「⋯⋯興醒めした」と"あいが"の時と同じように前払いよりも多めに金銭を置いて出て行った。
後にも先にも出会わないオメガに対して、身体の関係を持つのは良くないとそのようなことを思ってしまう。
あのような場所であるから、一度しか会わなくとも、問答無用で関係を持たせるのが当たり前だ。
それなのに、肩を持つような言い方をしたら、雅ではなくとも感情が芽生えたと勘違いされても仕方ない。
それに今回も雅を呼び出したのは、やはりこのようなことを止めたいと申し出ようとしたのだ。
「⋯⋯改めて思ったことを口にしたまでだ。あの会社に情報を盗まれた開発中だった薬も、オメガ用の抑制剤だった。そういえば、オメガのことをきちんと分かってないと思ってな。今回のことを通して理解を深める機会を得た」
「加害者に嫁入りするあたしに、わざわざお礼をするために呼んだってわけ? ご苦労なことね」
指先を相変わらず目立つ赤い唇に寄せ、嫌らしい笑みを浮かべた。
つくづく鼻につく女だ。
あの時、もう少し冷静でいれば良かったと後悔が募る。
家のためと言い聞かせてやろうとしたことが、あそこに行ったことで嫌になってくるとは思わなかった。
あの時は、あまりにも心に余裕がなかった。
「で? 話はそのぐらい? 帰ってもいいかしら」
「⋯⋯ああ」
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