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発情期(ヒート)が終わったであろう頃合いを見て、"あいが"の元へ訪れた。──が。 「俊我さん、お久しぶりですね。僕が発情期(ヒート)のせいで会えなくなったせいですけれども」 ベッド縁に座っている対象は控えめに笑った。 久しぶりに見ても変わらないその笑みに呑まれそうになったが、膝上に乗せられた両手を見た時、怪訝そうな顔をした。 「⋯⋯何なんだ、それは」 すると、言われた意味が分からなかったようで不思議そうな顔をしていたが、ややあって「あぁ」と言った。 「手枷のことですね。俊我さんの前のお客さんがこういったプレイがお好きな方でして。僕が発情期(ヒート)になった時に来店されていたようで。なってしまったお仕置きとして、次会うまでこのままでいろと命じられたのです。⋯⋯お見苦しいですよね」 「ですが、鍵を持ってかれまして、取れはしないのですが」と困り笑いをした。 その顔を見た途端、胸の奥がズキッと痛んだ気がした。 それはあまりにも扱いが酷すぎるのではないか。 "あいが"にとってこれも仕事だから、こんなことをされても許されるというのか。 「何をなさっているのですかっ。手では外れもしないのですよ」 動揺した声が聞こえた時、気づけば枷を外そうとしていたようだったが、()めようとはしなかった。 「止めてください。手を痛めてしまいますよ」 遠ざけようとした両手を、枷を繋ぐ鎖を掴み、阻止した。 「仕事とはいえ、これはいくらなんでも酷すぎるだろう。こんなじゃ、何にもできやしない」 ベビードールといういかにも誘っているような際どくも可憐な格好に、不釣り合いな自由を奪うもの。 よく見ると、打撲痕もあちこちにあった。 欲情をそそられる、と枷を繋いだ客のような者はそう思うかもしれない。しかし、俊我にとっては怒りしか湧いてこなかった。

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