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「お気遣いありがとうございます。でも、いいのですよ。僕は淫乱で底辺のオメガだから。愛玩道具にでもならないと存在価値すらないのですから」 はるかも知らない異物を入れられて、抜いてもらうよう命じられた。 それは店側の指示であったが、それも例に漏れず愛玩道具であるから有無を言わせずにそうさせた。 そんなはずがない。オメガであろうが、皆等しく同じ人間だ。 雅に言ったことを口にしようとした。が、言えるはずがなかった。 自分だって、ここに来る客と『ご主人様』と同じようなことをしようとしているのだから。 きっとこの先、"あいが"は一番に愛してくれようとしている相手に裏切られることとなる。"あいが"は深く心を傷つけるだろう。 どうしたらいいんだ。 「⋯⋯オメガは、愛玩道具などではない。こんな所ではそう言われてしまうが、俺だけは違うと言いたい」 「俊我、さん⋯⋯」 「お前が発情期(ヒート)だった日、俺も店に来ていた。会えないのは残念に思ったが、少なくとも自由を制限したり、身体を傷つけるようなことはしない」 驚いていて、そして、嬉しくて泣きそうになっていたのに気づかない振りをして、話を続けた。 「その時、代わりに別の奴に会った。そいつは無理やりここに働かされていて、部屋を自由から出ることを許されていないせいで、お前とか他に働かされている奴のことも知らなかった」 「僕も、俊我さんと初めて会った日が強制的に働かされて以来、初めて外に出たのですが、その際に知りました」 「そうだったのか」 「はい」 今度は俊我が驚愕の目を向けると、潤んだ目と合った。 あの娼年が吐露した時のような感情が再び湧き上がった。 けれども、やはりその言葉を口にすることはできなかった。 このまま"あいが"から離れてもいいとも思ったが、雅に何をされるか分からないし、何より"あいが"がこのまま飼い殺されてしまうのではないかと思うと、関わらずにはいられない。 後戻りはできない状況にまで来てしまった。

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