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38.
自分でも驚くほどのするりと出た言葉は、本心だった。
今日はそのために来たというのも過言ではない。
小野河として産まれた性というべきか、どうしてもその透き通るような肌を綺麗にしてやりたかった。⋯⋯と自分に言い聞かせた。
「⋯⋯ありがとうございます」
抵抗しようと手が俊我のされるがままとなった。
とはいえども、塗っている最中は互いに一言話さないためか、"あいが"の緊張している雰囲気が伝わり、俊我もその雰囲気に充てられてか、塗る指が速まった。
「⋯⋯い、⋯っ」
"あいが"が小さく悲鳴を上げたことで、自身が力も入っていたことに気づき、「悪い」と離した。
「あ、いえ、このぐらいのことで痛がってしまった僕が悪いんです。ごめんなさい」
「痛いに決まっている。少しでも当たると痛いというのに、こんなにも出来ているんだ。座るのでさえ辛いんじゃないのか?」
少し目線を外しつつも"あいが"の方を向いた。
彼は、魅入ってしまいそうな潤んだ唇を小さく開いた。が、引き結んでしまい、けれども、小さく頷いた。
「見える範囲はなるべく塗っておく。もう少しだけ我慢してくれ」
「はい、⋯⋯っ」
細心の注意を払いながら、細い肩に指に乗せた薬を付けると、小さく震わせた。
それでも気づかないフリをしてなるべくゆっくりと力まないように塗っていった。
「ひと通り塗り終えたぞ」
「お手間を取らせてしまい、すみません」
「謝罪よりも礼の方が気分がいい」
「⋯⋯ありがとうございます」
恐る恐ると言う"あいが"のずっと取っていた手の方に目線を向ける。
「やはり、冷却剤を持ってくれば良かったな」
「ここまでやってくださったのですから、いいですよ。それに、塗ってくださったところよりもすぐに治りますから」
「そうか⋯⋯」
何気なく赤くなった箇所に指で触れる。
途端、"あいが"が「ん⋯⋯っ」とピクッとさせた。
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