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44.
「ようやく一緒に暮らすのね。あまりにも遅すぎない?」
雅に対象と一緒になることを報告すると、腕を組んでため息を吐いた。
どんなことを言っても、癪に障るような言い方をする。
「そんなすぐに無理に決まっているだろ。三年程度で心を傾けたのはまだ早い方だろう」
「早い方、ねぇ。ま、普通の恋愛をしたことがないから、早いとかどうか分からないけど」
髪を弄りながら言った。
俊我も雅も代々親が決めた相手と結婚する立場で、それが当たり前であって、自ら恋をし、添い遂げることなどない。
だから、"あいが"に対して芽生えかけている感情に戸惑い、けれども、芽生えたとしても自身にも欺かないといけない。
恐らく、雅も同じような感情を抱えているのだろう。
こういった点に関しては、アルファでも自由ではないなと心の中で苦笑した。
「三年でもなんでも恋をするのは勝手だけど、あんたはそんな乳繰り合っているほど悠長なことをしている場合じゃないんじゃない?」
まぁ、そうだなと小さく呟いた。
あれから父の会社は、数人の社員でどうにか立ち回ろうとしている状況だった。
父があの頃から日常会話でさえ困難な状態に陥り、そのような人が代表が務まるわけがなく、代わりの者が代表として仕切っているようだった。
しかし、それも吹けばすぐに消えてしまいそうな灯火のような危うい状態。
俊我がその座に着くことなく、終わることが目に見えて来てしまった。
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