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「ごめんなさい。面白くないことを──」 「大丈夫だ。俺がいる」 「俊我さん」 自分よりも小さい手を握った。 ひんやりと冷たく感じたその手が、俊我の温もりによってじんわりと温かくなるのを感じた。 「怖がらなくてもいい。だが、無理はするな」 「はい」 「行くぞ」 その言葉で勇気づけられたと思った"あいが"が握り返してくれた。 それが嬉しく思い、小さく笑みを見せた後、恐る恐るといった足取りの彼に合わせて、歩調を揃えた。 途中、前に進むのを躊躇して立ち止まってしまった時があった。 小刻みに身体を震わせているのが、繋いだ手に伝わってくる。 「大丈夫だ、ゆっくりと行けばいい」 「はい······」 小さく息を吐いた"あいが"は、思うように動かない足を暗闇の中、一歩先が崖なのかを確認するかのように地面を踏みしめた。 「焦らなくていい。ゆっくりとだ」 俊我なりに励ましながら、"あいが"のことを見守っていた。 「まぶし······」 かなりの時間をかけて裏路地に出た瞬間、そんな呟きをして"あいが"は目を細めた。 「大丈夫か」 「はい······」 頑張ったな、と言うよりもその言葉が先に出てしまうほどに心配になった。 その返しも心許なくて、そこのところの配慮が足らなかったと自身に苛立った。 ただ、昼間ならば連れて行ってやれる所が多いから、久しぶりの外を楽しませてやろうと思ったのだ。 その考えが"あいが"を苦しめることになってしまった。 「この中を通って、タクシーに乗る。"あいが"にとっては辛いかもしれないが、あともう少しの辛抱だ。悪いが、少し頑張ってくれないか」 眉を下げた"あいが"がチラリと俊我のことを見てくる。 そして、視線を外し、行き交う人らのことをそっと見るように視線を向けた後、こう言った。 「少し······頑張ってみます」

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