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絞り出すように言うその言葉が、やはり無理しているようにも聞こえた。
けれども、ここを通らなければタクシーに乗れない。
「分かった」と返事をすると、握り直して人が行き交う中に混じった。
平日の昼間ではあるが、飲食店や商業施設が立ち並んでいるため賑わっていた。
表向きは親子連れなどもいて、至って平穏で普通な光景ではあるが、裏路地に一歩行ってしまうと猥雑な世界へと変貌してしまうのだから、その極端な変わりように吐き気に似たものを覚える。
そんな人々を横切り、止まっていたタクシーに乗り込むと、行き先を告げて出発した。
乗る直前、自然と手を離したままとなり、そして、互いに何か話すわけでもなく、車内はエンジン音だけが響いた。
窓越しに"あいが"のことを見ると、膝上に握りしめた両手を置いて、それを見つめるかのように俯いていた。
初めて会った頃のようなその姿に、苦笑した。
恐らく、自分らがどこに向かっているのが分からず、不安がっているのだろう。
あの時と同じような顔を覗かせていた。
「"あいが"。言葉足らずで悪かったが、不安になるような場所じゃないからな」
「え······? あ、ごめんなさい。そんな顔をしていたのですね。今度から気をつけます」
「いい。俺が悪いんだ。お前は気にしなくていい」
思わず振り返ると、"あいが"はやや食い気味に言う俊我に驚いているようで、目を見開いた後、小さく返事をした。
それを一瞥した後、再び窓の外を見て、またも沈黙が下りてしばらくした後、「着きましたよ」という運転手の声と共に車は止まった。
俊我から順に降り、車が去る音を背後で聞きながらも目の前のマンションを見上げた。
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