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"あいが"と共に住むためにと、雅がわざわざ用意した新たな場所。 自身の目的ならばここまで用意するとは。 ある意味感心すると、心の中で鼻で嗤った俊我は、「入るぞ」と見上げたままでいる"あいが"の手を取った。 「あの、ここは一体······」 「今日からお前と住むマンションだ。お前のために用意した」 「え、僕のために? そんな、僕なんかのために······」 「それほどお前と一緒になるのが嬉しかったということだ。お前は嫌だったのか?」 「嫌、なんて······」 戸惑いを隠せない"あいが"を見やる。 そんなわけがない。少なくとも"あいが"は俊我に対して好意的だった。 それなのに、"あいが"を試すような言い方をついしてしまった。 言い過ぎたと言おうとした時、"あいが"は言った。 「嫌だなんてそんなことありません。俊我さんは今まで相手してきたどんな人よりも、僕のことを想ってくれてました。ただ、僕のような人がこのような所を住めるとは思わなくて······」 自信なさげな顔と声音。 俊我のような人に水揚げをしてもらわなければ一生、あのような所で暮らさなければならないような立場だった。 だから、そんな言葉が漏れるのは仕方ない。 「部屋に入ってないうちからそう言われるとは思わなかったが、慣れてないうちは何度もそう思うだろう。だが、一緒に住んでいくうちに自分のような人間でも住んでもいいと思うだろう」 雅が"あいが"のような立場の人間を人間扱いしてない発言をしたのを思い出した。 そのようなやつがいるから、"あいが"のような人間が自信を失くすのだ。 俊我のそばにいる時は、少しでも自信が持てるようになったら。 「お気遣いありがとうございます。俊我さんはやっぱり優しい人です」 「そこまで言われるほどのことは言ってない」 「ふふ」 あの店を出て以来の控えめな笑みに面食らった。 まだ緊張が解けてないながらも、その表情を不意に見せられるとどうしようもない気持ちが溢れそうになる。 「行くぞ」 「はい」 手を差し出すと、"あいが"が手を握ってくれた。 たしかにそばにいるのを感じながら、共にマンション内に入っていった。

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