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50.
指定された一室に入る。
一畳半程度の玄関で、先に入らせた"あいが"がリビングダイニングに続く廊下の周りを見回していた。
それに留まらず夢中になっていたせいか、そのまま上がろうとする彼のことを引き止めた。
「"あいが"。靴を脱いでないぞ」
「え? あ、僕としたことが······。靴を履いてない習慣に慣れてしまいますと、脱ぐことを忘れちゃいますね」
えへへ、と照れくさそうにしながら脱いで上がった。
"あいが"が言っている通り、ずっと裸足のままの生活をしていたようだ。
そういえば、店前で客引きしていた時も、裸足のままだったと思い返す。
あの店を出る際にも、無理やり働かされる時に着ていた服なども捨てられてしまったらしく、着ていくものがないと困っている彼に服一式を買って与えた。
今まで下着同然の薄着のものを着ていたせいか、服を着た時、落ち着かなさそうに自身の姿を見ていたが、俊我の方を見た途端、はにかんだ。
「お金をもらった時以来の、僕としてもらった物ですね。とても嬉しいです」
これがきっと愛おしいと思う人がいるのだろう。
そう他人事に思わないと、余計なことを口走ってしまいそうだった。
「あの、俊我さん。ここを開けていいのですか?」
玄関を上がってすぐのドアの前にいた"あいが"に声を掛けられたことによって、現実に引き戻された。
「俺に許可を取らなくてもいい。今日から住む部屋なのだから、お前の好きにしろ」
「はい······そうですよね」
苦笑しつつ、恐る恐るといった様子で扉を開けた。
そして、間もなく「わっ」と悲鳴を上げたことで、俊我は慌てて靴を脱ぎ、「どうした」と駆け出した。
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