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「トイレのフタが急に開いたものですから、びっくりしてしまいました。すみません」
「あ、いや、なんでもなければ別にいいのだが」
こちらに向ける顔が本当に申し訳なさそうにするものだから、これ以上何も言えるわけがなく、引き下がった。
あのいかがわしい部屋で"あいが"と時間になるまで話すだけで、あの部屋をくまなく見たことはなかったが、人感で開閉するタイプではなかったのか。
いたたまれなくて、"あいが"は隣の洗面所と風呂場へと赴き、「わっ、綺麗なお手洗い場」と感嘆の声を上げたり、「お風呂場が透けてない······」と呟いた。
あの部屋の風呂場はちょうどベッドから見える位置であったため、嫌でも視界に入ってしまっていたが、その呟き通りに風呂場が丸見えだった。
そういう店だからそのような仕様なのだが、"あいが"があそこでも見知らぬ客と相手していたと思うと、不憫でならないし、その相手のことが無性に腹が立つし、ここにいる間はゆっくりと浸かって欲しいと思った。
風呂場も一通り見終えた"あいが"は、廊下の先の扉の方へ向かった。
「わぁ······」
そんな声を漏らしながら、ゆっくりと中へ入っていくその後に続いた。
右手にはカウンターキッチン、真っ直ぐに行くとリビングに繋がっているリビングダイニングという部屋だった。
その部屋にはソファとテレビと、必要最低限の物も用意されていた。
用意周到だとそれらを見た後、不意に窓の方へ向かい、外を見ている様子の"あいが"の姿があった。
「どうした」
何か気がかりなことでもあるのだろうか。
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