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"あいが"が落ち着いてきた頃。 ぐぅぅ······と空腹音が聞こえてきた。 途端、顔から火が出るほど赤くなった。 「ご、ごめんなさいっ! なんだか安心したら、お腹が空いてしまったようで······」 「か······別にどうってことない」 余計な言葉を言いそうになり、恥ずかしさで俊我から離れようと、けれども、躊躇している"あいが"に「遅めの昼食でも作るか」と俊我から離れた。 「あ······っ、僕も手伝いますっ!」 「外に出て疲れただろう。そこのソファでも座ってろ」 「ですが······」 「気にするな」 「······はい」 叱ったわけではないのに、まるで叱られたように哀愁を漂わせるその後ろ姿を尻目に、冷蔵庫を開けた。 「······そこまで用意しているわけないか」 新品の匂いがする中を一瞥した後、"あいが"の方へ向かった。 ところが、"あいが"は膝を抱えてうつらうつらとしていたのだ。 あれほど泣いたのだ。緊張が解けて眠くなったのだろう。 眠っている間に買い物に行ってしまおうと、踵を返した時、突然ハッとして、驚いた顔を見せた。 「あっ、俊我さん、もう出来たのですか?」 寝ぼけているのか、と吹き出しそうになるのを堪え、「そんなわけがない」と淡々とした口調で返した。 「食材が全くなくてな。今から買い物に行ってこようとしていたところだ」 「じゃあ、買い物のお手伝いを──」 「いい。泣き疲れて寝かけているやつに頼むほとではない」 「······そうですよね」 困った顔を見せた。 気づかれたくない感情を抑え込もうとして、吊り上がった目つきが強調するような不機嫌な態度を見せてしまったか。 けれども、この気持ちはしまい込んだままにしていたい。 これ以上構っていたら、抑えきれなくなると俊我は、「······行ってくる」と告げて、今度こそ踵を返した。 その背中に見送る言葉を小さな声が聞こえた気がしながら。

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