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買い物している最中、"あいが"のことが気になってしまい、なかなか集中が出来ず、思ったよりも時間がかかってしまった。 夕暮れに差し掛かる中、両手に荷物を持って、足早と帰路へと着いた。 「ただいま······──」 玄関を何とか開け、滑り込むように入り、ひとまず、上り(がまち)に荷物を置こうとした時。 正座をして眠る"あいが"の姿があった。 何故、ここに。 呆然と突っ立っていると、顔をゆるゆると上げた。 「······おかえり······ませ······ごしゅ、じん······さま······」 呂律が回ってない言葉で言って、頭を垂れた。 何を言っている、と口にするが前に、"あいが"が丁寧に足首辺りに手を添えてきたかと思えば、靴を脱がせようとしてくるのだ。 「あ、"あいが"!」 あまりにも様子がおかしい。 細い肩を掴み、乱暴に揺さぶるとぼんやりとしていた瞳がはっきりとした。 「あ、れ? 俊我さん、お帰りになれていたのですね。また僕いつの間にか寝ていたのですね。すみません、待てなくて」 「い······いや、そんなことは全く気にしてないし、そもそも寝てていいと言ったはずだが······」 いつもの"あいが"に戻ったようだが、つい先程の違和感が拭えずにいた。 そのぎこちなさに"あいが"は気になったようで、「俊我さん?」と首を傾げてきた。 「······夕方になってくると、寒くなってくる。いつまでもここにいたら風邪を引くぞ」 「え、あ、はい」 明らかな誤魔化しようにぽかんとしている"あいが"を横切り、キッチンの方へ行くと、買い出した食材を冷蔵庫に入れていった。 駆け足気味にやってきた"あいが"が「僕、入れておきます」と申し出るので、今度は任せると、俊我はなんだかんだ夕食となってしまった料理を作ろうと取りかかる。

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