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56.
あのようなこと、忌まわしいあの店でやらされていたのだろうか。
食材を切りながら、先程の出来事を思い出してしまった。
俊我のことを出迎えようとしていたが、眠気に勝てなく、いつの間にか寝てしまったものの、無意識下に俊我なことを『ご主人様』だと間違え、あのような行為をしてしまうほどに、日常的にやっていたと推測する。
俊我の靴を脱がした後、何をしようとしたのか。
「冷蔵庫にしまい終えましたよ」
急に横にやってきた"あいが"に動揺し、しかし、すんでのところで指を切らずに済み、内心安堵の息を吐きつつも、「礼を言う」と返した。
「えへへ。······ところで、俊我さんは何を作っているんですか?」
「それは出来てからの楽しみだ。それよりも、さっき甘い物があっただろう。あれ全部お前のだから、好きなだけ食べろ」
「え、あんなにも!? そんな全部は食べれませんって!」
「さっきの詫びだ」
「え······?」
小さく驚いた声が聞こえた。
「そんなお詫びさせてしまうほど、僕、俊我さんに何か気を遣わせてしまったでしょうか」
「お前が疲れているのに、何かと手伝おうとしようとするから、その時に突っぱねた言い方をしてしまったと思ってな。その詫びだ」
不安そうに眉を下げる"あいが"のことを安心させるために、俊我は精一杯の笑みを見せた。
すると、虚に突かれた顔を見せたのも一瞬で、はにかんでみせた。
可愛い。
「あ、ですが、そんなに食べれませんし、それに······一緒に食べたいのです。それは許してくれますか?」
おずおずと言う身悶えてしまうほどの申し出に、そんな可愛いことを許さないはずがないと勢いで言いかけたのをぐっと堪え、「······その程度のことは許可を取らなくていい」と返した。
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