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59.
食事をし終え、風呂に入る時間となったが、"あいが"が、たくさんのお礼をしたいからと、せめて背中を流したいと恥ずかしそうに申し出てきた。
それが"あいが"なりの精一杯のお礼なのだろうが、あそこの忌まわしい習慣だと思うと心底腹立しく思えた。
その感情を表に出さないようにし、俊我はこう言った。
「マンションのこともそうだが、料理も自己満足のためにしたことだ。お前がそこまで礼をしたいと言うのであれば、美味しいと言っててくればそれでいい」
「そんなことで、俊我さんは満足してくれるのですか?」
「お前が思っているほど、そういうことは嬉しいものだ」
「······アルファであろうお方が、そのようなことが出来て当然だと思っていたので、僕のようなオメガにわざわざ言われて気に障るかと思ってました」
目を瞠った。
「······そんなこと······言われたのか······」
「え? 何か仰いました?」
「いや·········そうだな······」
考えながら、ゆっくりとこう続けた。
「オメガは特殊な体質があって、社会的に生きにくい立場ではあるが、そういった性であっても等しく同じ人間だと俺は思っている」
そして、過ごしやすくするその助けをするために、薬を開発していた。
あの薬が世に出回れば、"あいが"のような立場の人間でも、少しでも過ごしやすくなり、そして、差別は減らせただろうか。少しでも役に立てただろうか、と。
「······俊我さんは、優しい方です」
笑みを含んだ顔で、ぽつりと言う。
「僕のような立場の人間でも、等しく接してくださる。その言葉を掛けられるとは思わなかったので、本当に······嬉しいです」
心の底から嬉しいという感情が零れんばかりに笑った。
優しい、なんてこのような状況じゃなければ素直に嬉しい言葉だ。
だが、"あいが"のその顔をずっと見ていたくて、そして、触れたくなった。
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