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"あいが"の照れたように笑いながら言ってきた要求に、身体が固まった。
「······さっき言ったと思うが、俺はこういうのは詳しくないし、その上センスもない。お前はこだわりがないと言っていたが、それでもそんなやつが選んだものは喜ばしくないだろう」
「そうであっても、僕は俊我さんが選んでくれたものでしたら、なんだって嬉しいです」
不意打ちに心臓が止まるかと思った。いや、一瞬心臓が止まったかもしれない。
そう思うぐらいの衝撃が俊我に襲いかかった。
何故、そんなにも些細なことで喜んでくれるんだ。何故、容易く他人を信用してしまうんだ。そんなにも自分はこの純粋な人間に優しくしただろうか。
「あっ、ごく当たり前に俊我さんにまた物を頂こうとしてしまいました! 下着は自分で買います! ······とは言いましても、お金はないのですが······」
「分かった。俺が選んでやる。だが、どんなものでも文句は受け付けないからな」
やや大きめの瞳が丸くなった。のも一瞬で、嬉しそうに頬を緩めた。
「ありがとうございます」
"あいが"からやや目を逸らしつつも、携帯端末を返してもらうと、直感で選んだ下着を数着注文した。
「僕、どうにか働きますので、その時にお支払いします」
「無理して働かなくてもいい。お前が喜んで着てくれたらそれだけでいい」
「······分かりました。そうさせていただきます」
素直に応じる"あいが"に「寝るか」と声を掛け、「はい」と返事をする彼にほぼ無意識に背中を向ける形となった。
目を閉じた時、すぐさま思い浮かぶのは、先ほどの画像らと、そして、注文した下着。
適当に選んだように見せかけて、何気なく"あいが"に似合いそうな物を選んでいたのだ。
それじゃないと落ち着かないと言っておきながら、頬を赤らめながら自身の姿を手でさりげなく隠そうとしている"あいが"の姿が不意に脳裏に過ぎった時、正気でいられるのかと思った。
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