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「なるべく早く帰ってくるが、何かあったらすぐに連絡しろよ」
「はいはい、分かりましたよ」
「あと、昼のは冷蔵庫に入っているから、それをレンジで温めから食べろよ」
「はいはい」
「それから、洗濯物を干してあるから、忘れずに取り込んでおいてくれ」
「もう、俊我さん。起きてからずっと言ってますよ」
愛賀がくすくすと笑っていた。
愛賀と暮らし始めてから数ヶ月が過ぎた頃、ある問題が見え始めた。
それは、残金が底を尽きかけていることだ。
雅が家賃を始め、生活する上で必要なものを負担しているので、本来であれば金銭には困らないが、何から何まで世話になるのが嫌だった。
自分が何も出来ない世間知らずを突きつけられているようで、そして、何よりもあの女のおかげで生活してもらっているようで、いや、貸しを作っているようで、至極不愉快だった。
俊我も持ち金はあるが、それは元々大学生活に困らないためにと親からやけに多くもらっていたものだ。
が、愛賀と生活することとなった時、将来に見込みがないと、いつまでも通っていても意味がないと大学を辞めたため、以降愛賀のことを主に生活費に充てていた。
そして、同時に生活が変わってから投資やり始めたが、今のところ大した稼ぎにはなっておらず、他のことをすべきかと悶々としていたところに高校時代の数少ない友人から連絡が来たのだ。
『久しぶりに会わないか?』と。
今日はその用事で外に出ようとしているところだ。
こんなこともあろうかと、外になかなか出ようとしなく、かといって家にいて趣味を高じるなどもなさそうな愛賀に、ここ数ヶ月、愛賀にはそう言っている仕事を早く切り上げて家事を教えていた。
しかし、年単位でようやく人並みにやれてきていると自負している俊我と比べて、破滅的な生活をしてきたせいもあってか、なかなか上達しない。
いや、数ヶ月で一通り完璧にこなす方がすごいのかもしれないが。
常日頃から少しでも家を空けることが心配であったが、今日は特にそれが顕著だった。
その家事の面もあるが、それよりも。
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