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73.
待ち合わせ場所である、カフェチェーン店に入った。
店内をぐるりと見回してみると、見知った人物が「ここ!」と大きく手を振っていた。
その人物がいる角の席へ足早と行った。
「俊我! 久しぶりだな!」
「お前は相変わらず騒がしいやつだな」
「そりゃあどうも〜」
「褒めてない」
刺々しい突っ込みにも歯を見せて笑っていた。
昔から本当に何かとよく笑うやつだ。
されどもその顔が眩しく、目を細めた。
通りかかった店員にそれぞれ注文を済ませた後、俊我から話を切り出した。
「で、俺に何か用なのか?」
「まぁ、大した用ではないんだけどな。これから会社面接しに行くんだけどさ、今すげぇ緊張していて解す方法がなんかないかな〜と思っていたら、俊我のことが思い浮かんでさ、それで呼んだわけ!」
「なるほど」
彼がびっしりとスーツを着ているのはそういうことなのか。
大学三年であれば、就職活動で勤しむ時期だ。
「どこの会社に行くつもりなんだ?」
「製薬会社の営業!」
ぴくり、と瞼が動いた。
「⋯⋯何故」
つい出た疑問に、彼は照れくさそうに頬をかいてこう言った。
「高校の時に、やりたいことがないし、かと言って仕事がしたくないから何となく大学に行こうかな〜って言ったじゃん? 本当はずっとやってみようと思っていたことがあったんだけどさ、なんか恥ずかしくてちゃんと言えなかったんだよね」
「そんな恥ずかしがるようなことじゃないだろう」
「いやぁ、家が製薬会社の御曹司の前で言うのはさ⋯⋯ねぇ?」
忙しそうに目をキョロキョロする彼に対し、怪訝な顔をした。
「⋯⋯やましいことでもあるのか?」
「いやいやいやっ! 逆! むしろ憧れ! 尊敬! そんな顔で見ないでくれよ!」
俊我の顔を見ないようにと、自身の顔を大げさに腕で隠していた。
こいつの大げさな反応は昔からだ。特にそのことに関してとやかく言うほど興味はない。
それよりも、その口から言われたことだ。
どういうことなのか。
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