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76.※軽性描写
それからしばらく俊我は携帯端末で株の変動を眺め、これからどうすべきかと思考を巡らせていると、いつの間にか外が暗くなっていることに気づき、会計を済ませ、早々に帰路に着いた。
「ただい──」
玄関を開け、中に入ろうとした足が止まった。
今朝感じた匂いがぶわっと俊我にまとわりついた。
いや、今朝よりも濃厚となり、その甘ったるい特有の匂いが思考判断を鈍らせる。
「おかえりなさい、俊我さん」
その匂いの要因が嬉しそうに迎えてくれた。
だが、違和感があった。
緩んだ頬を染めた顔は、まるで夢心地かのようにとろけた顔を見せ、華奢な身体を見せつけるかのようにくねらせていた。
布地の少ない下着がより強調され、俊我の理性を壊しにかかった。
「ぼくねぇ、洗濯物ちゃんと取り込めたんだよ? あとね、俊我さんのために夕ご飯作ってみたの! ねぇ、えらい?」
「⋯⋯あ、あぁ⋯⋯そうだ、な⋯⋯」
「えへへ、じゃあ⋯⋯いっぱい頭をなでて?」
無邪気な子どものように振る舞う可憐な青年に、疑問を抱いた。
目の前のオメガは、俺が知っている愛賀なのか。
なんなんだ。
普段とのあまりもの差に、目が眩む。
寄りかかるように細い肩を掴んだ。
「⋯⋯愛賀、お前発情期 になったんじゃ、ないのか⋯⋯?」
「うん! そうだよ! だって、俊我さんに挿 れてもらいたくて、仕方ないんだもの⋯⋯」
「⋯⋯っ」
すり⋯⋯と、小さくて細い指を俊我の下腹部へと辿り寄せていった。
と、その手を掴んだ。
「俊我さん⋯⋯?」
きょとんと、されど期待した目を向けていた。
その欲しがるような潤んだ瞳で見ないでくれ。
既成事実のためにすべきことだと分かっていたが、拒もうとしている。
しかし、そんなのはほんの僅かな躊躇だった。
濡れた淡い色の唇に引き寄せられるように自身の唇を重ねた。
愛賀が驚いたように瞳を開いたが、拒む様子は全くなく、むしろその気にさせようと俊我の唇を擦り寄せるように触れてくる。
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