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84.
覚めてきた目で、今は何時なのかと携帯端末を探そうとした時、目の前に膨らんだ布団があった。
こちらに背を向けて、膝を抱えているような形のようだ。
頭まで被った布団の主に声を掛ける。
「⋯⋯愛賀。起きていたのか」
なんてことないことを言っただけだった。それなのに大げさに跳ねた。
「あ⋯⋯っ、お、おはようございます⋯⋯先に起きてしまいました⋯⋯すみません⋯⋯」
「いや、起きるのは勝手だが⋯⋯」
声だけでも苦笑いしている雰囲気が感じ取れた。
それよりも、普段聞いていた敬語になっているということは。
「発情期 治まったんだな」
「はい⋯⋯そう、みたいですね⋯⋯」
えへへ⋯⋯愛想笑いをしつつも、どこか申し訳なさそうにしている印象を受けた。
あの時のこと、憶えているのか。
「あの⋯⋯その⋯⋯僕が何かと余計なことを口走ったかと思います。それで、俊我さんの多大なるご迷惑をおかけしてしまって⋯⋯」
「それは仕方ない。何せ耐え難い衝動だ。全く迷惑だと思ってない」
「ですが⋯⋯僕が⋯⋯僕、が⋯⋯」
布団が小刻みに震えていた。
また泣かせてしまっただろうか。
今度こそ慰めてやりたいと、思うように動かない手をどうにか上げようとした時、震える声で言ってきた。
「⋯⋯申し訳ありませんが、今は一人にさせてください」
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