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そのようなことを言われてしまったら、これ以上いる方が悪いと思い、脱ぎ捨てた服を持って時間をかけて部屋を出た。
ひとまずシャワーを浴びようと浴室に行き、浴びている最中、あることを思い出した。
あの箇所に付けてしまった傷はどうしただろうか。
愛賀が泣くほどだ。きっと、酷い傷となってしまっただろう。
一時でも愛しいと思っている相手を傷つけないと口にまでしたというのに、フェロモンに充てられてそこまで乱してしまうなんて、なんと情けない性なんだ。
「⋯⋯ッ」
壁に怒りを込めた握り拳をぶつける。
こんな感じじゃ、また発情期 が来た時も同じように、今回以上に愛賀のことを酷くしてしまいそうだ。
早く俺のような愚かで浅ましくて情けない人間から解放してあげなければ。
簡単に洗った俊我は早々に浴室から出ると、手当てするために再び愛賀のいる寝室へと向かった。
出て行った時と同じ姿でいる布団の塊に声を掛けた。
「⋯⋯愛賀。一人でいたいところ悪いが、その⋯⋯首辺りの手当てをさせてくれないか」
布団の塊が動いた。
「⋯⋯手当てしてもらうほど痛いところなんてありませんよ。それに首なんて、まるで番の証を付けたようですね。噛んでくれたのですね」
彼なりの精一杯の冗談混じりで言っているようだが、その声はまだ震えていた。
「⋯⋯首だけでいい。取ってくれないか」
「⋯⋯はい」
白くて細い手が恐る恐るといったように、頭まで被っていた部分を取った。
首輪まで取り外す愚かな行動はしなかったことに人知れず息を吐いたが、自分が噛んだと思い当たる箇所を見た時、目を疑った。
最初に首輪下辺りに付けた痕の他に歯型が付いていたのだ。
一箇所や二箇所ではない。最初に付けた痕の周りや肩へとその痛ましい痕があったのだ。
それは、首輪を囲むように未練がましく噛んでいた。
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