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「⋯⋯いえ、こんなのただの自惚れですよね。なんでもありません。今言ったことは──」 「自惚れじゃない」 顔を上げると、振り返っていた愛賀と目が合う。 発情期(ヒート)の時か、はたまた俊我がいない時に泣いていたのか、目元がうっすらと赤く腫れていた。 「そのようなことを思ってもいいんだ。俺は口下手だから、伝えているつもりでも伝えていなかったんだな。⋯⋯それ以前に、お前のことが魅力的だと思わなかったら、お前と一緒にいようとは思わない。だから、その程度のことを思っていても悪いことではない」 この言葉は残酷だなと俊我は思った。 この言葉さえも一時の気休めにしかならないのだから。 愛賀にとっても、自分にとっても。 「俊我さんがそこまで想ってくださっているのなら、いっそのこと僕とこ⋯⋯」 「こ?」 「あぁ、いえ! ただ血迷ったことを言おうとしただけです! 忘れてください!」 顔を真っ赤にして、目の前で全力で両手を振っていた。 可愛い。いつもの調子に戻ってきたようだ。可愛い。 「そうか」と返事をしつつ、何故そのような顔になったのかは分からないが眺めていると、頬を染めたまま改まった顔をした。 「俊我さん。⋯⋯抱きしめてもいいですか?」 「え」 「いえ、嫌でしたら別にいいのです! ただ言ってみたかっただけ⋯⋯と言いますか⋯⋯」 「⋯⋯いや、嫌ではないが。いきなりどうした」

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