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愛賀からそのようなことを言うのは初めてであった。 だから、その不意打ちに心の準備も出来ていなかったし、愛賀からではなく、衝動的にこちらから抱きしめてしまいそうになるのを堪える。 そんな俊我の葛藤を露知らず、モジモジさせていた愛賀であったが、おずおずと言った。 「今、急に俊我さんの温かさを感じたくなりまして。一応許可をと思いまして⋯⋯」 「前にも言ったが、そのぐらいなこといちいち許可を取らなくていい」 ほら、と両手を広げると「では、失礼します」と控えめに俊我の腕の中に収まった。 「ふふ、やっぱり俊我さんに抱きしめられるのは好きです。とても安心します」 「俺が抱きしめる側になっているな」 「へへ、自分で言っておいてなんですが、この形が自然とさまになっているのですよ。今度こそは僕から抱きしめてあげます」 「⋯⋯期待はしてない」 「えー、ちょっとは期待してください」 むぅとむくれてみせるが、すぐに満面な笑みを見せてくれた。 可愛い。好き。 つい出そうになったのを堪え、ただ見たかった笑顔を眩しそうな目で見つめていた。 この笑顔を見られるのはあと何回なのだろう。

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