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それから気を紛らわそうと食事を作っていると、風呂から上がってきた愛賀が人の顔を見るなり、さっきとはいかないものの顔を赤くして、ソファに膝を抱えて座っていた。
一瞬、のぼせたのかと思ったが、そうではない反応に首を傾げ、しかし、それ以上言及することなく、何事もなかったかのように食事を共にした。
ところが、食事中まだ顔を赤くしたままでいる愛賀にとうとう心配になってきた俊我は訊いた。
「愛賀、のぼせたのか?」
「いえ、のぼせる前に湯船から上がりましたよ?」
「じゃあ、どこか具合が悪いのか?」
額に手をやろうとした時、とっさに「だ、大丈夫ですから!」と立ち上がった。
その際に手が当たったようだ。皿がひっくり返り、愛賀が短い悲鳴を上げた。
「大丈夫か! どこか火傷とかしてないか」
足早と愛賀の方へ周り、一通り見ていた。
「はい⋯⋯ちょっとびっくりしちゃっただけで⋯⋯」
「今回は良かったものの、こういうことがあるかもしれないから、ちゃんと服を着ろよ」
「はい、分かりました⋯⋯」
しゅん、と落ち込んだ愛賀が再び座ったのを見届けてから、俊我も座り直した。
俊我にとってはさほど怒ったわけではなかった。だが、愛賀があまりにも落ち込むものだから、悪いことをしてしまったと自分のことのように胸を痛めた。
「怒ったつもりはない」
「はい⋯⋯分かってます」
それでも沈んだ声で言う愛賀に心配にはなったが、これ以上何も言えず、静かな食事を続けるのであった。
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