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そのまま気まずさが続き、その日の夜から一人でゆっくりとしていた方がいいと、適当な理由をつけて、それぞれ別の部屋で寝ることにした。 食事のことでそうした方がいいという判断ではない。あの噛み跡に罪悪感を覚えているからだ。 とはいえ、手当てをしてやらねばならないし、俊我と一緒にいると愛賀が気まずそうな顔を見せるものだから、なるべく一緒にいない方がいいと思ったからだ。 「行ってくる」 「はい、行ってらっしゃい⋯⋯」 寝室に布団に丸まった愛賀に声を掛けた。 食事も別になりつつ、顔を見せないのが当たり前になってきた日。 このままだと既成事実を作る計画はできなくなるだろう。 そうなると雅が痛い目に遭わせてやると言わんばかりの脅しをされると思われるが、もうこの頃になってくると痛い目に遭わせるものが何も無いため、どっちにしろどうでもよくなっていた。 ひとまずは、投資以外の仕事をし始めようと思った。 なるべく家にいない方が愛賀にとっても気楽であろうから。 ところが、何度も落とされた。 髪型のせいだろうか、はたまた最近は慣れてきたものの、愛賀が苦手に思っていた目つきのせいだろうか、それとも愛想のなさだろうか。 それとも、『小野河』という名字のせいだろうか。 バイト程度ならばたとえ人手不足であろうところならば簡単に受かると高を括っていたものだから、それを感じ取られてしまったのだろうか。 とにかく受からない。 焦りが募る中、ふとあることを思い出した。 ──何か困ったことがあったら、俺でもいいから相談してくれよな? ポケットから取り出した携帯端末でメッセージアプリを開いた。 その友人のを探すと、あるメッセージが来ていた。 『会社面接でなかなかバイトに出れないんだわ。俊我さえ良ければやってくれないか?』

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