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それからというもの、愛賀はにこにことして、俊我と接するのが当たり前になっていた。
慣れてきた頃の愛賀に戻ってきたようで何よりだ。その綻ぶ笑顔をどんな時でも見られて嬉しいと思う。
それだけならば、特に何とも思わなかった。小さな幸せとも呼べるものを僅かな時でも味わえるのだから。
ところが、起きた時、食事を作っている時、出かける時、帰ってきた時と、その度に過剰なまでにしてくるのだ。いわば、ボディータッチというものを。
前から見送る時も出迎える時も頬にキスはしてきたが、それに加えて、離れたくないぐらいに抱きしめてくる。
最初、そんなにも家にいて欲しいのかと思ったが、寂しく思うわけでもなく、笑顔で返してくるものだからそうではない、かと思ったのだが。
「おかえりなさい」
玄関の音で気づいたのか、足早と出迎えてくれた愛賀が、背伸びをして俊我の頬にキスをし、抱きしめてくる。
「愛賀、今日も遅くなると言ったはずだろう。早く寝ろ」
愛賀がしたことをすることもなく、代わりのように文句を言った。
「だって、俊我さんに温かいご飯を食べてもらいたいんです。それに、待つことは慣れてます。好きな俊我さんなら、いくらでも待てますよ?」
小首を傾げてくる。
あの店でそのようなことを学んでしまったのだろう。そのあざとい仕草に許してしまいそうになる自分がいた。
「⋯⋯まぁ、いい」
悶えてしまいそうになるのを誤魔化すためにため息を吐き、手洗いをし──その時も雛鳥のようにくっついて歩いてくる愛賀のことを気にしてないフリをして──、食卓に着いた。
「手を合わせて、いただきます」
「⋯⋯いただきます」
食事の挨拶をすることも好きなようで、自ら進んでした後、俊我も言い、作ってくれた料理に口を付けた。
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