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100.※嘔吐
突如、口元を押さえた。
「愛賀?」
驚き、しかし、どうしたのかと愛賀のことを見ていた。
すると、急に青白くなった愛賀が立ち上がり、駆け足気味に部屋を出て行った。
「愛賀!」
その後を追うと、トイレのドアを開けたまま中に入って行った。
俊我も中に入ると、便器の前に跪き、戻している愛賀の姿があった。
「愛賀、どうした。急に気持ち悪くなったのか」
半ば状況を理解していないながらも、その背中をさすってやった。
「⋯⋯ごめ⋯⋯う⋯⋯ぇ」
「⋯⋯悪い。喋らせようとしたな。吐きたいのなら、吐いてしまった方が楽になる」
「う、⋯⋯ん⋯⋯」
鼻を啜り、嗚咽を漏らし、戻している愛賀をぼんやりと見ていた。
それにしても、急にどうしたものか。
ただ会話をしていただけなのに、これほど具合を悪くしてしまうだなんて、急な環境の変化に無理に対応をして、それが限界を超えてしまったのだろうか。
それとも愛賀なりに俊我を喜ばせようと、無理をしてスキンシップをしていたのだろうか。
好きであるはずなのに、相手のそんなことに気づけず無理をさせてしまうだなんて、あまりにも愚かだ。
「⋯⋯ごめん⋯なさい⋯⋯俊我、さん⋯⋯」
遠隔操作で嘔吐物を流した愛賀が弱々しく言った。
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