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102.
「おめでとうございます」
優しげな目元の医者がそう告げた。
その向かい合わせで座っている愛賀が、「え?」と聞き返していた。
全く理解が出来ない様子の彼に、医者が懇切丁寧に説明している中、そうだったかと安堵と胸が苦しくも感じた。
ここは産婦人科の診察室。それも、雅の親が経営する付属病院の所だ。
愛賀に何かしらの不調があればここに連絡するしろと言われていた。それは秘密裏にしていることだから、その辺の医療機関で安易に受診できないことを意味する。
そろそろ発情期 が来るはずなのに来ないからどうしたものかと思っている時、そのことがふと思い浮かんだが、まさか本当になるとは。
愛賀と離れる一歩を踏んでしまった。
そんなことを一切知るはずがない愛賀は、理解できていないながらも一生懸命話を聞いているのを横目で見つつ、俊我も一緒になって聞いているフリをした。
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