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それから愛賀は、前よりも家事に力を入れていた。 俊我は無理して頑張ろうとすると、お腹に支障が出ると釘を刺しはしたが、ある程度自分でやりたいようだった。 そして、子どものためにと服もきちんと着て、時折撫でたりしていた。 そんな幸せに浸っている愛賀を見たくなくて、家を空けることが多くなった。 愛賀はそれが仕事が忙しくなったのだろうと思っているようで、妊娠前と変わらず行く時や帰ってきた時には、キスとハグをしてくるが、お腹が大きくになるにつれて挨拶だけとなり、ついには見送りにも出迎えることもなくなった。 それは都合がいいと思いもしたが、そうしてくるのが嬉しく思っていたため、物足りなさを覚えた。 自ら離れるようなことをしておいて、そんなことを思ってしまうのは、自分勝手だが。 そうした毎日を送っていたある日のこと。当然のように帰ってきても出迎えがない、暗く寂しい玄関を過ぎ、いるはずのリビングの方へ向かおうとした。 ところが、リビングに繋がっているすりガラスのドアを見た時、どうしたのかと思った。 リビングが暗かったのだ。 「愛賀?」 パチっと、リビングの電気を付け、辺りを見回し、ソファの方へ目を向けた時、心臓が飛び出るかと思った。 お腹が大きくなった影響もあってか、膝を抱える格好ではなく、うなだれるようにして座っている愛賀がいたのだ。 「愛賀⋯⋯。こんな暗い所で何をしている」 「⋯⋯は、」 腹部に手をやり、何やらぶつぶつと言っている愛賀に「何を言っている」と隣に座った。 「⋯⋯俊我さんは本当に僕のことを愛してくれているの」 ピク、と身体が動く。 子どもができてから愛賀はお腹の子に話しかけるのと同じ口調に変わっていた。 それはきっと自分にしか見せてない一面であるはずで、嬉しく思ったが、今はそれに浸っている場合ではない。

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