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105.
「そうに決まっているだろう。だから、今も一緒にいる」
「仕事が忙しくて、毎日のように遅いのも僕のため?」
「⋯⋯そうだ」
愛賀がいいように解釈しているようで、内心安堵をしていた。
「これから養育費がかかってくるから、今のうちにと──」
「いやだ」
は、という口の形のまま愛賀の方を見ると、彼は俯いたまま続けた。
「僕が想像している以上にお金がかかるって分かっているけど、今は少しでも俊我さんにいて欲しいの。僕、すごく不安になる時があるんだよ。俊我さんが急に愛想を尽かして、僕たちのことを置いてそのままどっか行っちゃうんじゃないかって。不安でたまらない⋯⋯」
「俺はそんなことをしない」
「そんなこと分かってる。分かっているけど、ほぼこの子と二人きりでいる毎日が寂しくて仕方ないの。⋯⋯さびしい⋯⋯」
すすり泣く声が聞こえた。
これはきっとつわりというものだろう。普段の愛賀であれば言わなさそうなことを吐露する。つわりであるから仕方ないが、放っておくことも出来ない。
「ねぇ⋯⋯俊我さん、少しでも長くいることはできないの⋯⋯?」
「それは⋯⋯」
「ほんの少しだけでもいいの。そしたら僕、寂しくは思わないから」
「⋯⋯」
ねぇ、と潤んだ瞳でそっと俊我の身体に触れてきてねだってくる愛賀に、内心頭を抱えた。
既成事実の子どもを宿している愛賀の姿を少しでも見たくないがために、家を空けていたというのに、これでは逃れられない。
ここで断って、愛賀の体調が悪くなっていてしまったら、お腹の子にも影響が及ぶ可能性がなくはなかった。
それでもいいのではないか。
一瞬、そう思いもしたが、そんな身勝手な理由で流産もさせたくはないし、愛賀のことを悲しませたくはなかった。
だとしたら、取るべき行動は。
「⋯⋯分かった。なるべく一緒にいられるようにする」
目線をずらし、そう言ってみせる。
「俊我さん⋯⋯ありがとう⋯⋯!」
嬉しそうな声を上げて、自ら抱きしめてきた。
久しぶりの愛賀からの抱擁に新鮮な気持ちになりつつも。
「⋯⋯子ども、大事にしろよ」
そう言うのが精一杯だった。
それでも愛賀は、「はは、そうでした」と離れてしまったが、嬉しそうだった。
反対に俊我は気が気ではなかった。
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