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その日はなるべく愛賀のそばにいることを努めた。 俊我が自分の望み通りにしてくれたことが嬉しいと思っているようで、一緒に家事をしながらも笑顔を向けて話すのが多かった。 この調子であれば、子どもは大丈夫であろう。 『オメガという性を活かして、代理出産をされているだなんて、滅多に聞かない話ですよね』 皿洗いをし、先に座らせていた愛賀の元に行くと、付けていたテレビを真剣になって観ている横顔があった。 子どもができてから変わったものの一つに、テレビを観ることであった。 数年とはいえ、世間からかけ離れた生活をさせられていたことに加えて、学歴が低いことを気にしているらしく、こうして色んなものを観ては、学ぼうとしていた。 それはこれから産まれてくる子どもに恥をかかないためというそんな懸命な青年の姿に、愛おしく感じてしまう。 今度から学校の勉強でも教えてあげようかと思いつつ、「何を真剣に観ているんだ」と声を掛けた。 「あ、俊我さん! 観て観て! 子どもが産めない人の代わりに産んであげるという人のドキュメンタリーを観ているの。同じオメガでもすごいことをしているよね。⋯⋯オメガでもこういうことをしてもいいんだ」 その呟きは、かつて望んでもない仕事をさせられて痛く、苦しい思いをし、けれども、そんな第二の性であるからそれしかないと思われていたからだろう。 その重たい呟きを聞いてないフリをして、愛賀の隣に座り、テレビを観た。 テレビに映る代理出産を仕事しているオメガが、どうしてそのようなことをしているのか、オメガという性だけで苦労したこともあるが、アルファ、ベータでも理解してくれている人は中にはいて、仕事を斡旋してくれる人もいると嬉々として語っていた。

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