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「僕、この仕事をしてみたいな」 「⋯⋯外に出るのは大丈夫なのか?」 「一番はそこなんだけど、きっと大丈夫だと思う。この子と、それに俊我さんがいてくれたら、いけそうな気がするの」 ね、と優しく撫でる愛賀の横顔を見つめていた。 どこまでも俊我のことを信用している。信用しきってしまっている。 だが、それが当たり前だ。なにせ、愛賀に寄り添った言動をしてきたのだから。 どこまでも人を信用してはならないのに。 「無理して仕事をしなくてもいい。俺だけの稼ぎで生活は出来なくもないのだから」 「けど、いつまでも俊我さんに頼っている場合じゃないと思うんだ。俊我さん以外の人と交流して、テレビだけじゃ知らないことを知りたいし、この子にも色んなことを教えたい」 「俺が色んなことを教えてやる。だから、お前は家で子どもと一緒にいてやれ」 「それだと俊我さん、毎日遅くになるよね」 「そうならないように努める」 「それになんだか嫉妬しているように聞こえる。僕が誰かと仲良くしているの、嫌?」 首を傾げて訊いてくる。 試しているような顔をして。 嫉妬、なんてしているつもりはなかった。ただ、愛賀の存在を知られると何かと不都合であるから、なるべく外に出したくはなかった。 知らしめてしまうのは、その子どもと引き離してからだ。 「今はそれよりも子どもを無事に産めることを考えていろ」 「えー? 今はぐらかしたよね? 俊我さん、はぐらかしたよ?」 お腹の子に「今見た?」と話しかけている愛賀を横目に、テレビに顔を向けているように見せかけた。 オメガのパートナーらしいアルファが、自分らの子どもを抱えてインタビューに答えていた。 『妻がこの仕事をすると聞いた時、僕は心配になりました。自分の身体を労わって欲しいと思いましたが、産める自分のおかげで、子どもが授かれるという幸せを感じられるというのなら、してあげたいと。そんな優しい妻のために出来る限り協力してあげたいと思ってます』

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