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110.
「⋯⋯なんだ」
「⋯⋯でも、もっとシても良かったんだよ⋯⋯?」
喉が詰まったような感覚を覚えた。
なんてことを言い出すのか。
いや、その気にさせてしまった自分の方が悪いか。
「今回のことで子どもに何かしらの悪い影響が及ぶかもしれない。だから、軽い気持ちで口をするな。⋯⋯とはいえ、最初にしたのは俺の方だが」
「んー⋯⋯子どもに悪いことが起こるのは嫌だし⋯⋯けど⋯⋯」
けど、の先を口ごもる。
何を言わんとしているのは大まか分かったような気がして、先を促さず、言おうか言わまいか迷っている愛賀のことを待っていた。
そんな青年のことを待って少ししたぐらいだろうか、口を開いた。
「分かった! じゃあ、子どもを無事に産んだら、いっぱいシて!」
「⋯⋯シてってな⋯⋯。お腹にいても結構聞こえているらしいぞ」
飛び上がらんばかりに無邪気に言う愛賀に、不意打ちにも心をわしづかみにされそうになり、慌てて呆れた声を出した。
「けど、仲良くしているのはいいことだって、ネットで書いてあったよ?」
「⋯⋯うーん、まぁ、そうだな⋯⋯」
「僕はどんなことでも俊我さんと仲良くしているところを子どもに見せたいな。この子には幸せになって欲しいし」
腹部を優しく撫でて、独り言のように呟く。
愛賀にその資格は充分にあるが、その資格を奪わせてしまうのは自分で、もしかしたら、二度と訪れない幸せを味わせてしまうこともありえなくもなかった。
胸が苦しい。
「あ、そうだ」
急に声を上げた愛賀に一気に我に返った俊我が驚いているのを気づきもせず、テーブル上に置いていた携帯端末を手に取った愛賀は、慣れてきた手つきで操作をしていた。
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