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119.

愛賀に労いの言葉も、暗に会いに来て欲しいと送ってきたメッセージにも返事もせず、一週間近くになってきた頃。 退院するというメッセージが送られてきた。 仕事を終えて帰ってきた時にはいるのか。 俊我には半ば望まれてない子どもと利用されているとは知らないオメガが。 今日で会うのが最後になる。死に別れたと思うぐらいの最後にしないと、愛賀には悪い奴だと思われないと、離れがたくなってしまう。 最後にしないと。 帰りたくないな。 重たい足取りで帰宅する。 玄関を開けると、きちんと揃えられたシンプルなデザインの靴が置いてあり、次にリビングに続くドアの方を見やった。 電気が点いている。 一人でちゃんと帰って来れたんだな。 今までは検診の時も付き添っていたものだから、一人で行かせたことがなかった。 ここの住所と病院は教えていたから、行けなくもないが、それでも偉いと思った。 しかし、ここで暮らせるのは最後となるだろう。 リビングへのドアノブを握ろうとする手が震える。 これからしようとしていることが後ろめたいことだと思っていて、身体が拒否している。 けれども、しなければ。 ぐっと握ると、そのまま捻った。 リビングに入り、自然と目を向けるのは、定位置となったソファに腰かける愛賀の姿があった。 少しの間だけ見なかった程度だが、ずいぶんと久しぶりに見たような錯覚になる。 気づいてない様子の愛賀の目線の先を辿っていくと、大切そうに抱えている赤ん坊を寝かしつけているのだろう、身体をゆっくりと揺らし、まだ不慣れさがあり、緊張した面持ちながらも、その眼差しは暖かくも優しかった。 その姿をいつまでも見ていたかった。 気配でも感じたのか、俊我の姿を見つけた途端、満面の笑みを見せてきた。 陣痛が来ても、出産にも立ち会わず、さらには入院中にもとうとう来なかった薄情なやつにそれでもそんな顔を見せるというのか。 胸が痛い。

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