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122.
泣き止まない赤ん坊をどうにかあやしながら階下を降りていった。
エントランスを抜けると、ゆうに八人程度は乗れる高級車が止まっており、その前に運転手だろうか、俊我の姿を認めるなり、こちらに一礼をする。
雅にはマメに連絡はしてなかったが、あの病院で愛賀は出産したのだ。どちらにせよ、こちらの状況は筒抜けだったのだろう。
「小野河様、お乗り下さい」
「⋯⋯ああ」
俊我が近くに行くとごく自然とドアを開けてくれ、素直に乗った。
座った時、絶妙に柔らかい感触に包まれた途端、緊張していたらしく、どっと疲れがのしかかった。
走り出した車の振動なのか、それとも泣き疲れたのもあるのか、赤ん坊は俊我の腕の中で大人しく眠っていた。
全く関係ないことに巻き込んでしまって、本当に悪い。
小さな頭を壊れものを扱うかのように撫でた。
愛賀も今頃、一人寂しく泣いているのだろう。
俊我もこの赤ん坊もいなくなってしまったあの部屋で一人で暮らしていけるのだろうか。
いや、雅が用意した部屋だ。こうして目的を終えてしまった今、用済みの愛賀はただちにあの部屋から追い出されるだろう。
幸せに浸っていたのが急に崖に突き落とされたかのような絶望に陥った状況。
しかも、それは愛賀にとっては一番に信用していた俊我のせいで。
「⋯⋯愛賀」
謝っても、赦されるはずがない大きな罪。
この身を差し出しても償えることなんてなく、後悔の海に沈む。
誰にも気づかれることなく、自分の姿さえも見えない真っ暗な海の底に沈んで、食いちぎられても構わない。
ただ、愛賀の元に残したあるものに気づいてくれたのかが気がかりだ。
愛賀のしたかったことがどうかほんのささやかでもいい、幸せだと感じられたら。
そう願いつつ、目を閉じた。
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