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123.
「小野河様、着きましたよ」
聞き慣れない声がすると思い、目を開ける。
寝ていたことを自覚し、次に憎たらしい雅が用意した車で行き先を知らぬままに乗っていたことを思い出す。
ドアが開かれ、それに導かれるがままに降りると、とあるマンションの前に来ていた。
夜もすっかり深くなり、細かいところは分からないが、街灯で照らされた箇所で見る限り、愛賀と暮らしていたマンションとは外観が違っていた。
ぼんやりと照らされたエントランスの方をただ何となく見つめていると、ここに住んでいる住人だろうか、奥から来るのが見えた。
それが女性だと思ったが、その相手が見知った相手だと分かった瞬間、眠ったままの赤ん坊を抱き込んだ。
高いヒールを響かせて、真っ直ぐこちらにやってきた女は人の顔を見るなり、口角を上げた。
あの嫌に目立つ真っ赤な唇が街灯の光のせいで、より際立つ。
「子どもを抱きかかえていると、本当のパパみたいね」
「⋯⋯そりゃ、どうも」
憎たらしい相手に嫌味ということは充分に分かってはいるが、一番言われたくないことをこうも真正面で言われると、烈火のごとく怒りたくなる。
が、愛したかった相手の子どもがいい子で寝ているのだ。こんなしょうもないことで起こしたくない。
「⋯⋯で、こんな夜更けに連れ出しておいて、俺に今度は何をさせるつもりなんだ」
身寄りのないオメガに既成事実を作るための口実に子どもを作らせて終わりではないはずだ。
何より今の状況では、御月堂の面汚しもしてない。
すると、「察しのいい」と嫌味たらしい笑みを深く刻む。
「まぁ、この程度のことは誰でも分かることだけど。⋯⋯あたしが勝手に決められた相手と婚姻するまでの間、あんたはその好きだった相手の子どもでも育てておいて」
「⋯⋯⋯は?」
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