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好きだった相手に対しての反論したかったが、それよりもこの女が婚姻するまでの間、この子どもの世話をしておけと?
もう二度と会うつもりはない傷つけてしまった相手のせめての償いとして育てようとは思っていたが、改めてしかも何度も見たくないやつからこうも言われると、じわじわ怒りが沸き立つ。
「⋯⋯お前に言われなくとも、そうするつもりだったが」
「そう、律儀なことね。そんなにも未練タラタラだったら、用が済んだらまた一緒に暮らしていたらいいじゃない」
ピクリ、と眉が動く。
元々こちらの利害の一致から利用しただけだった相手で、そんな相手と回数を重ねていくうちに好きになってしまい、純粋ではなく後ろめたい気持ちで、特に一緒に暮らしていったら、罪悪感が常に付きまとっていたというのに、こうも軽く言われると。
「⋯⋯できるわけないだろう」
怒りが抑えきれないといった地を這うような低い声が漏れる。
と、次に言おうとした時、手に力が入ってしまったようだ、その痛みで静かに眠っていた赤ん坊が再び泣き出してしまった。
そこで我に返った俊我は慌ててあやそうとした。
ところが、一向に泣き止むことはなく、さらに声を上げていた。
愛賀だってまだ慣れてなかったが、ただ純粋に愛情を一心に与えようとしているのが、きっとこの赤ん坊にも伝わっていて、やましい気持ちで押し潰されそうになりながらあやす俊我とは違う。
それでも懸命にしている俊我に嘲笑の声が聞こえてきた。
「あんなことを言っておいて、結局ダメじゃない」
お前だって子どもを育てたことがないくせにと反論しようとしたが、している余裕はなかった。
「あんたにはその程度のことも頼れそうにもないわ。──ちょっと代わって」
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