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126.
呼び止めようとしても聞こえてないのか、住人しか入れない先へと行こうとしていた。
あの扉が閉まったら、エントランスに取り残されてしまう。
そんな恥をかきたくないと、半分ほど閉まりかけている扉へ滑り込むように入った。
そのまま上山について行き、ある部屋の前の扉を開ける。
「これから小野河様らが住まわれる部屋となります」
玄関へと手を差し示した上山が、俊我を先に通すように端に寄った。
今まで住んでいた部屋とさほど変わらなそうな間取りだと印象を受けた。
この部屋に住んでいられるのは、雅が婚姻するまでだろうから、せいぜい四年程度か。
どちらにせよ、また雅側が用意した部屋だと思うと腹が立つが、愛賀と一緒に住んでいた頃よりかは穏やかに過ごせるはずだ。
愛賀。
「小野河様、どうされました?」
幸せを奪ってしまい、悲しみに暮れる愛賀のことをぼんやりと思い出していると、玄関に突っ立ったままでいたようだ、「⋯⋯なんでもない」と言って、靴を脱ぎ、恐らくリビングであろう部屋へと目指した。
もう愛賀は必要のない人間なのだ。この先きっともう会わないであろう、嫌いにさせてしまった赤の他人のことなんて、考えている場合ではない。
今は目的のために半ば望まれてない子どもの世話のことを考えてればいい。
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