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できるわけがない。
かつて愛していた相手との子どもを見てしまったら、そのようなことを割り切れるはずがない。
俊我よりも愛賀似の男児で、泣く度にあの日のことを思い出されて、自分らの勝手な目的のために利用し、誰よりも愛情を与えてくれた母と離れてしまったことを責めているように聞こえてならなかった。
それに責め立てられるように、いや、未練の方が勝っているといえる、俊我が付けた『大河』という名は、愛賀が一生懸命考えた名前候補の中にあったもので、かつ、『小野河』に掛けていると勝手に思い、そんな単純な理由で付けてしまった。
その大河の世話は、上山がいれば俊我がする前にやってくれている。
愛賀としてきた家事でさえも完璧にこなしてしまい、上山は優秀だったと再確認するのと同時に失敗しながらも、一生懸命さが愛おしかったとささやかな幸せが上書きされていくようで、嫌悪感が増していった。
愛賀のお腹が大きくなるにつれて現実逃避していた時と同じように、大河の存在を消そうと目を背けようとした。
「──ご注文を繰り返します。枝豆二つ、レバー四本、つくね二本、ぼんじり四本、砂肝四本、生二つ。以上でよろしかったでしょうか」
「アスパラベーコン三本、さえずり三本、あと、皮とねぎまを忘れてない?」
「え?」
そんなに言い忘れていたかと思い、手元を見てみるとそもそも聞き取れていなかったようだ、言われた注文がなかった。
「失礼しました。アスパラベーコン三本、さえずり三本、皮とねぎまはどのぐらい注文しますか」
再度謝罪を口にした後、厨房に向かい承った注文を伝えた。
何故、聞きそびれてしまったのだろう。
最初の頃はやはりしたことがなかったからよくそのようなことがあったが、最近は慣れたのもあり、そのようなことはなくなっていた。
一年近くやってきた程度で図に乗らない方がいいか。
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