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「小野河君、三番席に生三頼むよ」 「はい」 先ほど承った席より前に承った席のジョッキ三つを抱え、向かう。 あれから一週間ほど過ぎた。 雅がそのようなことを言ってきたわけではないが、きっと俊我らが出て行ったすぐに、愛賀もまたわけも分からず追い出されてしまったことだろう。 俊我と共に暮らしている間、検診の時に初めて外に出て、しかも俊我と病院と家との行き来した程度で、そのような人間が急に外に出されて、一人でやっていけるとは思えない。 あれを頼りにやっていたらいいが。 ガッシャン! すぐそばで盛大な音が聞こえ、現実に引き戻された。 その音の方を見やると、ジョッキだったものが中身だったであろうビールと共に床にぶち撒かれていた。 それが俊我が持っていたジョッキの一つが滑って落ちたのだと、遅れて理解した。 何が起きたのかと、周囲の客の視線を浴びる中、「失礼しました」と空いていた席に無事だったジョッキ二つを置いて、ホウキとちりとりを持ってこようとした。 「はい、これ」 目の前にまさに取りに行こうとしたものが差し出された。 その持ってきた相手を見ると、桃瀬だった。 「⋯⋯悪い」 受け取り、そのまま桃瀬は大きな破片を慎重な手つきで分けようとしていたので、「手、切るぞ」と自分がやると渡されたものを押し返した。 「⋯⋯前も思ったけど、アルファなのに優しいんだね」 拾おうとした手が止まった。 「⋯⋯アルファだから優しくしてはいけないのか?」 「ただ、珍しいなと思って。⋯雅ちゃん以外にいるとは思わなくて」 今度こそ顔を上げた。 「⋯⋯あれが?」 あんな自分勝手な奴のどこが優しいんだ。 怒りを滲ませてそう吐いてやりたかったが、こないだの桃瀬の言い知れぬ恐怖を思い出し、口を噤んだ。

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