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131.
閉じられた扉の中から、大河の泣く声が聞こえた。
起きてしまったのか。
ダイニングに向かおうとした足をそちらに向け、いる部屋の扉を開けようとした手を止めた。
こんな奴に世話をされて大河は嫌にならないだろうか。
自分よりも愛賀の方が。
──何かありましたら連絡してください
そこでかぶりを振った。
今はあのオメガじゃなく、雅が雇っている上山が世話をしている。
そうだ、上山が出かける際にそう言っていたではないか。だから、そうするべきだ。
ソファに置いたままの携帯端末を取りに行こうと踵を返した時。
ひときわ泣く声が大きくなった。
それはまるで、俊我にして欲しいと引き止めているようだった。
本当はあやしてやりたい。あの時好きで仕方なかった相手を泣かしてしまったことを思い出してしまうから、静かにしたいというのが大きな理由であったが。
愛賀。
気づいた時には、泣く大河を緊張で強ばる腕にそっと抱いてあやしていた。
あの日以来、抱き上げていなかったのもあり、ちょっとしたことでも落としてしまうのではないかと思うほど慣れていなく、その緊張と不快感から大河は泣き止まないと思っていたが、再び寝にいった。
「⋯⋯いい子だな」
そんな言葉が漏れる。
自分の血も入ってしまっているが、愛賀の純粋無垢で素直さに加えて、お腹にいる時も愛情を注ぎまくっていたのだ。いい子じゃないはずがない。
既成事実と称しているが、あんな雅 の子ではない。
静かに眠る大河に微笑みながら、ベビーベッドにそっと置こうとした時、何かを察したかのように起きてしまった。
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