132 / 177
132.
「なんでだ」
ついその言葉が漏れつつも、泣き出しそうになる大河をあやす。
するとすぐにつぶらな瞳がスッと閉じたので、ふぅと息を吐いた。
上山があやして、寝た大河をベッドに置いた時はそのようなことはなかったのに何が違うのか。
「⋯⋯俺は元は自分のために愛賀のことを利用した最悪な人間だ。そんな悪い奴に抱っこされて嫌だと思わないのか」
時折小さな口を動かして眠る大河に目線を落とす。
「俺と一緒にいてもろくでないことが起こる。⋯⋯もしかしたら、お前のことを一番に愛してくれた母親の元に行かせられないかもしれない。だから、そんな望まれて産ませてないお前は俺のことをもっと責めてくれてもいい。じゃないと、収拾がつかない」
あのオメガに対しての罪悪感が付きまとっている。その嫌な感情に対して敏感だと聞いたことがあった。だから、あの日のように抱っこされて嫌がられてもおかしくないのに。
「⋯⋯俺の方が安心だと思っているのか」
かつての愛賀のように自分に害を成すものではないと、一番に信用して、愛想を向けてくれた時のように。
いや、妥協かもしれない。現実から目を背けていたが、幾分そばにいた血を分けた間柄であるから。
ただ、それだけのはずだ。
「──小野河様、ここにいらしていたのですか」
思考が途切れ、声のした方を向けると、いつの間にか帰ってきていた上山がいた。
「⋯⋯帰ってきていたのか」
「驚かす形になってしまったのでしたら、お詫びを申し上げます」
深々と丁寧に頭を下げた。
「姿が見えませんでしたので、外出されたのかと思いましたが。⋯⋯お手を煩わせてしまったようですね」
こちらに歩み寄り、「大河様をこちらへ」と手を差し出したのを、「いや、いい」と遠ざけた。
ともだちにシェアしよう!