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「何にもやることがなかったところに、泣いていたのをあやしただけだ。このぐらい大したことはない」 「左様でございますか」 手を下ろし、引き下がる上山に「一つ訊いてもいいか」と言った。 「あやしたのはいいが、下ろそうとした時、大河の奴起きるんだ。この時どうすればいいんだ」 「私があやした時はそのようなことはありませんでしたね。ですが、そういう赤ん坊もいると聞いたことはありますけれども⋯⋯」 一度目線を外した上山が考えるような仕草をした後、「恐らくですが」と前置きをし、 「小野河様の腕の中にいたいのでしょうね」 「俺の腕の中に?」 「はい。それがきっと一番安心できる場所だから、離れたくないと泣いているのではないかと」 やはり、そうなのかと思うのと同時にあの日以来抱っこしてないのに、何故なのかと改めて疑問に思っていた。 その心中を読み取ったかのように上山はこう言った。 「小野河様が、大河様のことを優しくしてあげたいという気持ちがあるからないでしょうか」 「⋯⋯俺が?」 そんなはずが。 大河のことを見る度に、特に泣いている時は、あの日の幸せごと奪ってしまった罪悪感で埋もれているというのに、そんなことを思うわけがない。 「ご自身が自覚していなくても、大河様はそう感じていると思われます。子どもはそういうことには敏感ですから」 自分でも思っていたことをこうも改めて人に言われると、実感を覚えるが、それでも腑に落ちない。 「⋯⋯俊我様も、そのようなことがあったと旦那様と奥様はよく話されてました。ですから、大河様も同じかと私は思いますよ」 上山の独り言のような呟きに、時折そんなことを話していたことを思い出す。 あの頃は、将来に不安はなく、ただ両親なりの俊我のことを愛していたと感じる話を、恥ずかしく思いながら聞いていた。 あの頃には戻れない。 けれども、今は大河のために自分がすべきことを思いついた。 穏やかなに眠る大河のことを自身に抱き寄せ、見つめるのであった。

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