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136.
「上山、今撮ったか?」
「はい、撮りました。微笑ましい光景だと思いまして」
そう言っているうちに口元を抑えて、顔を背けていた。
急になんだと思ったが、小刻みに震わせていたことから笑っているようで、けれども、堪えきれないといったところか。
料理を作っている間に眠ってしまった愛賀に声をかけた時、飛び起き、その姿が可愛いと、しかし、笑っているのを誤魔化そうとしたことを思い出した。
俊我が教えた料理を作って、食べているだろうか。そんな気力もないか。
そういえば、欲しがっていた下着を買う話になった際に、愛賀はお金がないと言っていた。
あの店にいた時、余分にあげていた金はどうしたのだろうか。あの店の人間に何らかの形で取られてしまったのだろうか。
こうなることが分かっていたのだから、また渡してやれば良かった。
「小野河様?」
「う?」
上山と大河が呼びかけてきたことで、深い思考から引き戻された。
「不愉快に思われたのでしたら、今後やらないようにします」
「いや、そのことでは⋯⋯。⋯⋯大河のことを撮ってもいいのか」
「そのぐらいことはしても良いのではないでしょうか。写真を撮ることで、大河が成長していると実感されると思いますので」
「そうか。そうだな」
別にその程度のことをしても、もし仮にあのアルファが言いがかりでも嫌味を言ってきても、とやかく言われる筋合いはないだろう。そもそも自分の子だ。写真という記憶を残しておいてもいいだろう。
自分の手から離れても、大河のことは愛していたと伝われば、それで。
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