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「俺が大河と遊んでいるところを何だっていい、お前がいいと思ったところを遠慮なく撮っていって欲しい」
「承知しました」
改めてこちらに携帯端末を向けた上山から目線を外し、きょとんとつぶらな瞳で見つめていた大河のことを見た。
「大河。上山のところまでハイハイしてみるか」
「うっうっ」
「じゃあ、やってみせろ」
俊我が話しかけたから返事している様子の大河を、ソファから下り、床に下ろそうとした時、何かを察したらしい大河が、火がついたように大泣きしてしまったのだ。
「なんだ、どうしたっ」
すぐに抱き直し、背中辺りをポンポン叩いてやると、すぐに泣き止み、上機嫌になった。
「お前のことが嫌になったわけじゃないぞ。ただハイハイしているところを見たかっただけなんだが⋯⋯」
「あぅあぅ」
「⋯⋯まぁ、お前の好きにしてやる」
握ったままの小さな手を口に入れて、あむあむしている大河に微笑みかけていると、シャッター音が聞こえた。
「なぁ、今どんなのが撮れたんだ?」
「こちらでございます」
こちらに向けられた今まさに撮られた写真。
自分の手だというのに、パンのようにもぐもぐ食べようとしているように見える大河に改めて笑っていたのも束の間、ある部分にぴくりと反応した。
それは、大河に向けている自身の顔だ。
先ほども笑っていると自覚があったが、見つめる目がこんなにも優しいとは思わなかった。
⋯⋯というよりも。
「何故、俺までも撮っているんだ。大河だけでいいんだが」
「小野河様がいい表情で大河様を見ていらっしゃるので、つい。なるべく撮らないように致しますね」
「⋯⋯そうしてもらえると、助かる」
なにせ、大河と一緒にいられる保証がない。
大河が大きくなった時、実は望まれて産まれてないと何かしらのきっかけでバレてしまったら、大河が可哀想でならない。
だから、血の繋がりがある間柄といえども、証拠を残さないようにせねば。
そう決意する俊我の表情は固かった。
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