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こんなこと少しでも思うから、だから上山に優しいと言われてしまい、大河に懐かれてしまうのだ。
懲りないなと自嘲した。
「私のような者が出過ぎたことを言ってしまったのでしたら、申し訳ありません。ですが、ご一考して頂ければと」
「分かってる」
「⋯⋯では、夕食の準備をして参りますので、大河様が起きられた際にはよろしくお願いします」
「ああ」
こちらに一礼し、ダイニングに向かう気配を感じながら悶々としていると、ぱちりと目を開けた。
「おはよう。いっぱい寝たみたいだな」
朝食後、すぐに寝ず遊んで、そして挙げ句には昼食も食べずに夕食の準備までもろとも寝てしまったようで、そうと思わせるように窓の外には夜の空が広がっていた。
「ぱー! ぱー!」
よだれを垂らしていたのをよだれ掛けで拭いていると、大河がにこにこしながらそう言ってきた。
「⋯⋯今、なんて」
「ぱー、あー! あーぅ、あー!」
ただ単に言葉を発しているだけのようだ。
そもそもそうと教えてないから、ましてや俊我のことを「パパ」なんて呼ばせるつもりは毛頭なかった。
「⋯⋯聞き返すなんて、そう呼ばせたいみたいじゃないか」
自分にはその資格がないのに。
「あぅ?」
笑っていた大河が不意にきょとんとした顔を見せる。
俊我が妙な顔をしてしまったからか。
「なんでもない。お前には関係のないことだ」
「うー?」
首を傾げるような仕草をした後、急に興味が失せたかのように、ずり落ちるように俊我の腹部から下り、それから周りをハイハイし始めた。
やっとしてくれたとその行動を目で追い、しばらく経ったのだろう、「食事ができましたよ」という声で起き上がった。
「ほら、大河。腹が減っただろう」
「うーっ!」
抱き上げた時、むちむちの両手をめいっぱい上げて笑っていた。
きっと俊我に抱っこされて喜んでいるのだろう。
「⋯⋯行くか」
小さく笑んで、上山が用意してくれた食事の席にと向かったのであった。
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