140 / 177

140.

「ぱーぱ! まーぁ!」 一人で遊んでいるところを俊我が撮りつつも、画面越しでその光景を微笑ましく見つめていると、不意にこちらを見た大河がそう言ってきた。 ⋯⋯携帯端末を思わず落とすほどの衝撃が走った。 数ヶ月前にそれに似たようなことを発した時、それは単にそう聞こえる程度で気のせいと思うことにしていたが、今回はその気のせいでは済まされなさそうだった。 上山いわく、大河は平均よりも喋るのが遅いらしく、毎日話しかけているのにそれでも遅いものかと心配と焦りも感じていた。 けれども、そういう子どももいると割り切って、気長に待っていた最中での出来事だ。 驚かずにはいられない。 「ぱぁーぱ!」 お気に入りの木で作られた車のオモチャを掲げて、無邪気な笑顔を見せてくれる。 後ろめたさもない状況であれば、日々の疲れが一気に吹っ飛ぶほど癒されるものだが、俊我の立場からすれば複雑な感情が芽生えた。 「⋯⋯俺は、お前のパパじゃない」 「ぱー?」 柔らかな髪を撫でると、首を傾げているような仕草をしてきた。 困り笑いで見つめていた。 「まーまぁ!」 「⋯⋯え?」 俊我の後ろに向かって、きゃっきゃと笑っていた。 その一瞬、いるはずがないあのオメガの姿を思い描いてしまったが、大河の視線の先を辿った時、すぐさま現実を見た。 「まー!」 嬉々としてそちらに向かう大河とママと呼んでいるらしい上山を交互に見ていた。 「大河様、話せるようになったのですね。大きな成長の瞬間を見られてとても嬉しく思います。今夜は豪勢な離乳食パーティとしましょうか」 「きゃー!」 抱き上げた上山は、感動している素振りを見せ、その大袈裟な仕草なのか離乳食に反応してか、大河はひときわ歓喜の声を上げた。

ともだちにシェアしよう!